喜び

長男は、あと数日で二十歳になる。

彼は遅い朝食を摂り、朝シャンをした。その後、洗面台の鏡の前でワックスを髪に塗っていた。

「母さん、ワックス….固まってない~?」

と ターンしながら後頭部を私に見せる。

私は、ツンツン立った髪の中に白い固まりを見つけては、ひとつひとつねじりながら 潰して伸ばす。

「はい!いいよぉ。」

の私の声で、屈んでいた体勢を真っ直ぐにしながら、また鏡の前に立ち頭部を見ている。

しばらくして、雰囲気はパンク系の白と黒の洋服を身にまとい、姿見の鏡の前に立っていた。

彼は、身長173cm、体重65kg、ごく普通の体型だけど運動神経抜群よ!

週に2度、筋トレルームで鍛えている肩や腕はがっちりしている。

肌は白く、目鼻立ちはキリリッとしたきつね顔。心持ち足は短いが、カッコいい部類だと思う。(親バカね!って思ってるでしょ!)

かなり、おしゃれに時間を掛ける。やっぱし彼女の好みかな。自己顕示欲なのかな。

「車の中に、ラグビーボールあるぅ?」

と 彼は聞いた。

「あるよ。ガタガタコロコロ車の中でうるさいから、帽子をかぶせたらおとなしくなったよ。」

と 私は答えた。

好天気に誘われるように、長男が、私の車に乗って出掛けた。

「4時半までに車を返してね。友人Hとコンサートへ行くんよ。」

「あー!」

「いってらっしゃ~い。」

昼食の為仕事から帰ってきた父親が、長男と私の車の姿が無いコトを気にして、

「あんなんは、何処へ行ったんぞ!」

と 聞いた。

「さぁー、デートじゃない?」

と 私は答える。

「それでえんか? ハン、あんたらしいのぉー。行き先も聞かんと…誰と遊ぶとも聞かんと…車を貸すんか?たいしたもんじゃ。」

と 嫌味たっぷりに注意を受けた。

私は、誰と何処で何をするのか、たいして気にならない。ただ、無事に帰ってくればいい。

今頃、後部座席のティッシュマンを見て、彼女と大笑いしてるだろうなー。

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息子は、約束通り4時半に、満面の笑みで帰ってきた。

「休みは、誰と何処へ行くのか、母さんはええから、父さんには、言っておきなさい。」

と 夫に嫌味たっぷり注意を受けたことを愚痴りながら長男に注意した。

「わかったよ。」

「だけど母さんよりオレのほうが恋愛はうわてじゃのぉ。父さんは、自分が出掛ける時行き先を聞いてもらいたいんよ。」

と ほざく・・・。息子はバイクに乗り、バイト先へ慌てた様に跳んで行った。

「俺の世界に顔出しするな!」と言っていた生意気な長男は、最近、間違った私の考え方を正してくれる時がある。

そりゃー嬉しいものだ。絶えず自分が正しいことって、ありゃーしないから。

この関係は死ぬまで続きそうだ。一生続けたい会話って、中々ありゃーしない。

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